最も大切なこと-「経験」

これまで英語の効率的な勉強法を話題にしてきました。複数の作業を掛け合わせたり、感覚に絡めて学習することは、ただ単一作業を漫然と行うより、ずっと良いです。。でも、あえて言いますが、所詮はテクニックの話です。

では、英語を自分のものにする上で、最も大切なことは何でしょうか?

それは「経験」です。

私は中学生の頃から映画や音楽で海外に憧れを持つようになり、英語は得意教科でもありました。でも結局は、純ドメスティックな環境で育ち、外国人とも接することなどなく、学校の英語だけで社会に出たのです。

最初は国内の仕事でしたが、海外への憧れを捨てきれず、30歳を前に無謀にも(と周りから言われましたが)海外勤務を希望。30歳で香港に駐在しました。

憧れの海外生活でしたが、仕事は試練の連続。国際金融の仕事で、取引先は全てアジアの外国企業です。当然、取引先とのミーティングは全て英語、社内コミュニケーションも英語です。ここで私は必死でもがきながら、仕事のなかで英語を覚えました。

いま思い出しても赤面するような失敗もたくさんありました。でも、失敗した時の「悔しい」とか「いやだ」という感情とともに、「英語ではこう表現するのか!」といったことが、深く体に刻み込まれます。

悔しいことや楽しいこと、喜怒哀楽の情動とともに刷り込まれる知識は、忘れないです。これは何も英語に限ったことではなく、様々な職業で「仕事を覚える」ときにも言えることです。机上の理屈ではなく、自分で実際経験して、自分のものにしていくのです。

経験は英語で experience ですが、この単語の語源は「試みて得た知識」です。

この語源のとおり、自分でやってみて、失敗して、やっと成功して、そのなかで得た知識が、経験です。

香港のあと(結局5年駐在しましたが)またもや無謀にも希望して、ロンドンに転勤しました。そのときお世話になった大先輩に、”Three men in a boat” (ボートの3人男)という英国の古い小説を薦められました。当時は、まことに退屈極まりない本だなと思ったりしたですが、のちに、その小説のなかに次のような一節があったのを思い出しました。

主人公が少年の頃、ボートで沖に漕ぎ出す冒険をしたが、風雨に見舞われてしまう。奇跡的に漁師に救助されたが、4時間半のボートの借り賃やら、壊れたオールの弁償やら、助けてくれた漁師へのチップやらで、1週間分の小遣い銭が吹っ飛んでしまう。でも主人公は、最後にこう言うのですー

「・・・しかし我々は経験を学んだのである。そして諺にもいうように、どんなに高くついても経験は常に安いのだ。」

“But we learned experience, and they say that is always cheap at any price.”

そうです、自分がやりたいことをやったのであれば、それは全て経験になります。「やって損した」などということは無いのです。

英語をものにしたいのであれば、英語を使わざるを得ない環境に身を投じると前に書きました。机上の勉強だけでなく、海外で仕事するとか、勉強するということです。そういうチャンスがないという人でも、外国人と仕事をするとか。それも無理だと言うなら、英会話学校ぐらいは、行かないより行った方がいいでしょう。

とにかく、行動しましょう。


五感を使う

ここまで英語の効率的な勉強法として、複数の作業の掛け合わせの方法をいくつか紹介しました。

これ以外にもいろいろな方法はあると思います。読む、聞く、話す、書くの4つの作業を縦軸と横軸にして、マトリックスで考えてみても良いかもしれません。

例えば、英語字幕入りの映画を見る(listening x reading)とか、英語の歌をカラオケ+字幕付きで歌う(reading x speaking)とか。どちらも複数作業の掛け合わせですね。

ここで一つ注目したいのは、前者では同時に映像を見ますし、後者では同時に音楽をエンジョイしていることです。映像はあなたが好きなSFだったりラブストーリーでしょうし、音楽はもちろんあなたが大好きなアーティストのものですよね。

つまり4つの作業の掛け合わせである以上に、映像や音楽によって英語を記憶に刻み込んでいるということです。おまけにこれらはあなたが大好きなものですから、より強く刻まれます。人間、興味のないものは覚えませんよね。

映像や音楽などの、人の感覚・情念を呼び覚ますものとともに刻み込まれた記憶は、強いです。スターウォーズで「理力を使え」(訳語が古いですが)はオビワンが英語で何と言ってか、アナ雪で「少しも寒くないわ ♪」は英語で何と歌ってたか。。忘れないですね。

感覚というと、嗅覚、味覚、触覚などと絡めてみても面白そうです。

例えば、休日の朝にコーヒーを立てながら英語の雑誌を読む。分からない単語はコーヒーの香りと共に覚えましょう。匂いと記憶は強い結びつきがありますから。学生さんはケーキを食べるときに何か一つ単語を覚えてみてはどうでしょうか。お風呂では英語の歌を歌ってもいいかもです。ケーキの甘さ、お湯の熱さとともに英語が刷り込まれそうです。

英単語を覚えるときに、必死で英単語ドリルだけ見て暗記するのは、苦痛です。楽しくないし、効果も薄いと思いますよ。一夜漬けでいいという人もいますが、それって人生長い目で見て意味が無いです。英語は自分のものにしてください。

そう言えば、その昔学生は皆、紙の英和辞書を持っていました。私も研究社の辞書を持ってましたが、この辞書はところどころに印象的な挿絵が入っていて、その視覚記憶と単語が結びついて記憶できるような感じがしました。

また辞書に自分で書き込んだりマーカーで線を引いていくと、その辞書のページの書き込みやマーカーの色が全体としてそのまま頭の中に残る感じもしました。電子辞書だとこれはできないです。

以前なにかの本で読みましたが、ある人は自分の家のいろんな部屋に貼り紙をして、そこにいろんな英単語を書いて覚えるそうです。勉強部屋だけでなく、居間、台所の棚、冷蔵庫、風呂など。そうすると、頭の中にも自分の家を再現して、「あ、トイレの貼り紙にはあれが書いてあったな」みたいに記憶できるそうです。

話がやや拡散しましたが、言いたいことは、いろいろな感覚とともに記憶に刻むと、その記憶は強いということです。

どんどん工夫していきましょう!


シャドウイング、ディクテーション

周りに外国人に知り合いなんていないし、学校や職場は超ドメスティックで英語環境はまるで無し。でも英会話学校に行くにはお金と時間が無くて。。結局話す練習も書く練習もなかなかできない、という人も多いかもしれませんね。

結論的に言いますと、英語を話したり書いたりできるようになるには、上記のような「英語を使わざるを得ない環境に自分を追い込む」必要があると思います。この際思い切って英会話学校に行く、もっと思い切って外資系の会社に転職する、さらに思い切って海外に飛び出して勉強したり働いたりする、ということです。

本稿はここで終わってしまいそうで。。でも、話すことと書くことの良い練習法は何かないのか?となりますよね。

会話したりスピーチしたりといった要はコミュニケーションとしての「話す」ではなく、言葉を発するレベルであれば、以前話した「音読」があります。readingとspeakingの掛け合わせですね。ただ、音読ですとマイペースなスピードになってしまうので、会話のような「実戦」モードの訓練ではないかもしれません。

そこで話す練習としてもう一つ、シャドーイング(shadowing)があります。こちらは、ほぼ通常スピードの英語の音声を聞きながら、それを即座に復唱する練習です。流れ続ける音声を影(shadow)のように追いかけて復唱、というかブツブツつぶやく感じです。これもlisteningとspeakingという2つの作業の掛け合わせとなり、効果的な練習法だと思います。

同じように「書く」練習としては、ディクテーション(dictation)があります。読み上げれれた英語を書き取ることです。listeningとwritingの掛け合わせです。

こういった練習を積み重ねて、少しずつ英語のspeakingとwritingのスキルを上げていくのは、ありだと思います。

でも、最善の方法は英語環境に身を投じることですよ。

=次項へ続く=